【岐阜】廃校で過ごす静かな休日。「奥矢作レクリエーションセンター」でソロキャンプ車中泊【完ソロ体験記】

岐阜県恵那市、串原。
矢作ダムの上流へ向かう曲がりくねった山道を抜けると、突如としてその「場所」は現れる。
奥矢作レクリエーションセンター。
かつては串原中学校と呼ばれたその場所は、昭和の終わりに学校としての役目を終え、今は静かなキャンプ場として余生を送っている。
鉄筋コンクリートの校舎は、長い時間を吸い込んで、どこか思慮深い顔つきで山あいに鎮座していた。
ここには、都会のキャンプ場のような華やかさはない。
あるのは、圧倒的な「静寂」と、そこかしこに漂う「懐かしさ」という名の亡霊だけだ。
58歳になった私が、愛車スバル・サンバーを走らせてここに来たのは、単なる休暇ではないのかもしれない。
これは、過去へのささやかな探偵行だ。
序章:校舎という名のタイムカプセル
到着したのはチェックインの丁度正午だった。
受付へと足を踏み入れると、木造の小さなカウンターと棚、磨き込まれた廊下が私を迎えた。
そこには、不思議なほどに「現役」の空気が残っていた。今にもチャイムが鳴り、生徒たちが教室から飛び出してきそうな気配。
「ここはいわゆる、ゆっくりできるのが好きなキャンプ場なので」
管理人の女性は、そう言って柔らかく笑った。

その言葉通り、この日の宿泊客は私一人。「完ソロ」というやつだ。
誰にも邪魔されず、誰にも気を使わず。ただ、時間だけが降り積もる場所。
奥矢作レクリエーションセンター
- 施設名:奥矢作レクリエーションセンター (ほとりキャンプ奥矢作)
- 住所:〒509-7831 岐阜県恵那市串原1149-2
- チェックイン:12:00~
- チェックアウト:~11:00
- 車両の乗り入れOK・全フリーサイト
- ソロ用オートサイト:1,750円
- ウェブサイト
- 電話:0573-52-2411(9:00-17:30)
- FAX:0573-52-2411

第一章:グラウンドの片隅で
サイトは、かつて少年たちが白球を追ったであろう「校庭(グラウンド)」と、その一段下にある「林間サイト」に分かれている。
私は少し迷った末に、坂を下った林間サイトを選んだ。
広すぎるグラウンドの真ん中に一人でいるのは、なんだか世界に自分だけが取り残されたようで、少々居心地が悪かったからだ。
それに、林間サイトならすぐ側を川が流れている。川のせせらぎは、孤独な夜の良きBGMになる。
愛車のサンバーを停め、リアゲートを開け放つ。
私の「動く書斎」だ。
DIYで組んだ棚、寝床、そして使い込まれたキャンプ道具たち。
それらを広げ、自分だけの結界を作る。
ふと空を見上げると、初冬の西日が強烈に差し込んでいた。
その眩しさに目を細めた瞬間、記憶の蓋がふいに開いた気がした。

第二章:廃校の設備というミステリー
「廃校」と聞いて、古びた、あるいは薄汚れた場所を想像するならば、その予想は良い意味で裏切られることになる。
トイレの真実
ウォシュレット付きの洋式トイレ。冷たいタイルではなく、温かみのある空間。
廃校後に建てられたトイレなのだろう。ウォシュレットで清潔感がある空間だった。しっかりと管理されているのが分かる。
水場の手ざわり
サイトの脇にある炊事場。
並んだ蛇口は、まさに学校の手洗い場そのものだ。
蛇口をひねると、冷たく透き通った水が出る。この水はそのまま飲めるという。
蛇口からの水で顔を洗う。冷たさが肌を刺し、自分が「今」に生きていることを実感させる。
第三章:給食、あるいは追憶の味
今回のキャンプ飯は、来る前から決めていた。
このロケーションで食べるべきものは、ステーキでもアヒージョでもない。
「ソフト麺」のミートソースだ。
地元のスーパーで手に入れたソフト麺。レトルトのミートソース。
そして、スーパーで買ってきた、4個入りの安いコロッケ。コロッケは4つ入りのものしか売ってなかった。余ったら翌朝食べれば良い。
コロッケは設置完了のいつもの儀式としていただいた。安物のコロッケは硬く、パサついていた。

BaTaRaN焚火台にジュースのパックをハサミで切って折りたたんだものを着火剤として火をつける。
焚き火の上にイシガキ産業のスクエアダッチオーブンを乗せ、湯を沸かし、ミートソースを入れる。
袋を破り、麺をミートソースの中に放り込む。あの独特の重みと手触り。
水で薄めた分、粉末コンソメを足して少し味を濃くしたソースから麺をアルミの器に移す。

一口すする。
その瞬間、私の意識は44年前に引き戻された。
1980年。私が14歳だったあの頃。
教室のざわめき、机の傷、西日の匂い。
「美味しい」という単純な感想ではない。記憶の底に沈殿していた澱(おり)が、ふわりと舞い上がるような感覚。

第四章:銀色の錯覚
夜の闇は深く、校舎は巨大な黒い影となって私を見下ろしている。
焚き火の炎だけが、唯一の確かな現実だ。
炎を見つめていると、昼間の西日の中で感じた感覚が蘇ってきた。
14歳の頃、世界は自分を中心に回っていると信じて疑わなかった。
根拠のない万能感。未来への漠然とした不安と期待。
私はそれを『銀色の錯覚』と名付けた。
44年後の今、私はこうして一人、軽バンの中で夜を過ごしている。
あの頃の自分が今の私を見たら、何と言うだろうか。
「なんだ、おっさんになっても一人かよ」と笑うだろうか。
それとも、「悪くないね」とニヤリとするだろうか。

終章:魔法が解けた朝
翌朝。
昨日の残りのコロッケとウインナーを挟んだパン、コーヒーで簡単な朝食を済ませる。
朝の光の中で見る校舎は、昨夜のミステリアスな雰囲気とは打って変わり、ただの静かな建物に戻っていた。

「銀色の錯覚」は、昨晩の焚火の中で消え去ったようだ。
しかし、心の中は不思議と軽かった。
過去の自分と対話し、少しだけ昔馴染みになれたような気がしたからだ。
奥矢作レクリエーションセンター。
そこは、忙しない日常に疲れた大人が、置き忘れた時間を拾いに行くための場所なのかもしれない。
もしあなたが、喧騒から離れて静かに自分と向き合いたいなら、この廃校を訪れてみるといい。
そこには、あなただけの「銀色の錯覚」が待っているはずだ。

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この夜の出来事は、一本の映像作品として記録に残しました。
フィルムのような質感(Dehancer)と、森に響く小さな風の音。
言葉では語りきれない空気感を、ぜひ映像で体感してください。
▶ 【特別編集版】廃校で軽バンソロキャンプ。ソフト麺と銀色の錯覚
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