三重県のXadventures亀山キャンプ場でソロキャンプ|忘れ物と開かない缶詰と焦げた肉。やまない雨の森で見つけた静かな贅沢

今日の主役は、水の音になるはずだった。
三重県亀山市、初めて訪れる「Xadventures亀山キャンプ場」。サイトのすぐそばを川が流れ、木々の向こうには滝の音が涼やかに響く。これ以上ないほどのロケーションに、僕は胸を高鳴らせていた。愛車であるサンバーバンをサイトに停め、深く息を吸い込む。完璧な一日が、ここから始まるはずだった。
そう、完璧な、はずだったのだ。一番大事なものを、忘れてきたことに気づくまでは。
水だ。キャンプにおいて、命の次に大事な、その水を、僕はまるごと忘れてきた。ここの水は井戸水で、そのままでは使えない。絶望、というよりは、むしろ可笑しさがこみ上げてきた。58歳にもなって、僕はまだ、こんな初歩的なミスを犯す。
「予定外の不便さも、キャンプではまた一興か」
幸い、チェックインにはまだ時間があった。往復40分。来た道をもう一度、今度は水という明確な目的を持って、走り出す。二度見る景色は、それでも僕の目には新鮮に映った。忘れ物から始まる物語も、また悪くない。そう自分に言い聞かせながら、僕は再び、あの森を目指した。

第一幕:雨風をしのぐ、小さな城
ようやくサイトに降り立ち、改めて荷物を下ろし始める。今日の寝床は、いつもの車中泊ではなく、サンバーバンの横にタープを張るスタイルだ。雨の予報が出ていたから、しっかりとしたリビングスペースを確保したかった。
設営というのは、不思議な時間だ。
無心で手を動かしているうちに、都会でこびりついた余計なものが、一つ、また一つと剥がれ落ちていく気がする。ポールを組み立て、ロープを張り、ペグを打ち込む。今日の地面は、程よい硬さだ。ハンマーを打ち込むたびに、小気味よい手応えが返ってくる。
「…いい音だ」。まるで、地面が「ここだよ」と応えてくれているような、そんな音。こういう小さな手応えが、たまらなく嬉しい。
GOGlampingのTCタープ「HENGEN+」を、愛車の横に美しく張り終えた時、僕だけの小さな城が完成した。雨風をしのぎ、火を囲み、一人静かに対話するための、聖域だ。椅子に深く腰を下ろし、「ふぅ…」と息をつく。この、労働の後の、何物にも代えがたい達成感。これこそが「静かな贅-沢」の、最初の入り口なのかもしれない。

第二幕:新しい相棒と、ほろ苦い饗宴
城ができたなら、次は火を熾さなければならない。最近手に入れた大切な相棒、ユーエム工業のノコギリ「ゴムボーイ」で、拾ってきた枝を小気味よく切りそろえていく。この切れ味は、キャンプだけでなく、自宅でも活躍してくれる頼れるやつだ。火口を作り、火を育てる。この一連の儀式は、何度やっても飽きることがない。

そして今夜、この工房に、もう一人の新しい相棒がやってきた。Amazonで見つけた、イシガキ産業の「スクエア ダッチオーブン」。この四角いフォルムと、ソロに最適なサイズ感に、一目惚れしてしまった。これからの季節、鍋料理にもいいだろう。自宅で一度、丁寧にシーズニングを済ませてきたこの鉄の塊に、今日は最初の、そして、少しだけ手強いミッションを与えようと思う。

今夜のメインディッシュは、「ポークスペアリブのコーラ煮」。
焚き火の上に置かれたダッチオーブンが熱を帯びるのを待ち、まずは焼き目をつける。「ジューーッ!」という、脳天まで突き抜けるような、最高のファンファーレ。この音を聞くために、僕たちはキャンプに来るのかもしれない。
焼き目がついたら、主役の登場だ。コーラ。ちなみにペプシを買った。なぜなら、安かったからだ。そんな、大人の、少しだけやんちゃな遊び心も、ソロキャンプなら許される。麺つゆとニンニクを加え、蓋をする。
「蓋をして、煮詰まるのかな…?」そんな小さな不安を抱えながらも、「ま、蓋しとこか」と、火の番を始める。
煮込み料理は、待つ時間こそが、最高のご馳走だ。
ただ、火を見つめる。川の音に耳を澄ませる。コーヒーを淹れて、ゆっくりと飲む。この「何もしない時間」が、空っぽになった心を、満たしてくれる。

しかし、僕の休日は、そう簡単には終わらなかった。付け合わせにと買ったミックスビーンズの缶詰。そのプルトップが、無情にも、ちぎれてしまったのだ。「こんなことある?」と、一人、天を仰ぐ。缶切りなど、もちろんない。僕のミックスビーンズは、「開かずのタイムカプセル」と化した。これもまた、今日のドラマの、一つのスパイスなのだろう。

そして、メインディッシュのクライマックス。蓋を開けた瞬間、コーラと醤油の甘辛い、最高の香りが立ち上る。少し焦げた匂いはするものの、この瞬間は、成功したと思っていた。しかし、肉を箸で持ち上げようとして、僕は真実を知る。「煮込み料理はほったらかしで良いから楽だ」と誰かが言っていた。僕は、本当に、ほったらかしにしてしまったのだ。肉をひっくり返すことすらしなかった結果、見事に、鍋底に張り付いている。
苦笑いしながら、なんとか救出したスペアリブ。見てくれは少し悪いが、味はきっといいはずだ。焦げた肉の味、これが、今日の味だった。

エピローグ:雨のち、心は晴れ
夜が更け、予報通り、雨が降り始めた。タープを叩く、優しい雨音。それをBGMに、焚き火を眺めながら、ビールを飲む。それ以外は、何もしない。この贅沢な時間を過ごすために、僕はここまで来たのだ。
そんな静寂の中、予期せぬ訪問者が現れた。一匹の、美しいシャム猫。彼は、このキャンプ場の副管理人「さだはる」らしい。「タヌキに間違われるのがたまにきず」と書かれた紹介文に、思わず笑みがこぼれる。人懐っこい彼と、しばらく遊びながら、焚き火の夜は、更けていった。完ソロという恩恵を良いことに、炎との対話は、真夜中まで続いた。
…そして。見事に、寝坊した。
目覚めた時は、朝の9時半をまわっていた。チェックアウトは、11時。夜通し降り続いた雨は、まだ、静かに、世界を濡らしている。
「コーヒーを飲む時間なんて、あるのだろうか」
絶望的な状況の中、僕は自問する。いつものウッドストーブで、のんびり炎を育てる時間はない。でも。
「…いや」。
僕は、シングルバーナーを取り出し、湯を沸かす。この一杯だけは、譲れない。どんな朝にも、一杯のコーヒーを。…贅沢すぎるだろうか。
雨の中の、慌ただしい撤収。濡れたタープを畳み、道具をサンバーバンに詰め込みながら、僕は、この、あまりにも不器用で、計画通りにいかなかった休日を、振り返っていた。
水を忘れ、缶は開かず、肉は焦げ、寝坊して、雨に降られる。
完璧とは、ほど遠いキャンプ。
でも、不思議と、僕の心は、晴れ渡っていた。思い通りにいかない時間の中にこそ、忘れられない物語が宿り、本当の「静かな贅-沢」は、その、ほろ苦い味の中に、隠されているのかもしれない。
そんなことを思いながら、僕は、また、次の旅の始まりを、夢想するのだった。
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